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教員リレーエッセイ

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COVID-19の健康危機を、人はどう乗り越えていくのか


2022年12月10日更新
2019年の12月以降、全世界でパンデミックを引き起こしたCOVID-19は、私たちの生活様式や今までの価値観を一変させ、いまだにその終息が訪れていません。2000年を超える人類の歴史の中で、人は常に感染症と闘ってきたことを、改めて突き付けられた3年間だったのではないでしょうか。過去の感染症の記憶としてCOVID-19を彷彿させるのはスペイン風邪(インフルエンザ感染症)です。大昔のように風化してしまったこの流行は、1918年から1920年であり、COVID-19のほぼ100年前、人類の歴史は一定の間隔で繰り返され「神から試されているではないか」と感じます。

COVID-19による全世界の累計感染者数は、約56億人、死亡者数は、636万人(厚生労働省検疫所報告,7月20日時点)であり、今もなおこの数は増え続けています。今でこそ、COVID-19のワクチンやレムデシビルなどの治療薬が開発・供給され、さらに日本国内においても、11月22日にCOVID-19の治療薬ゾコーバ(塩野義製薬)が厚生労働省で緊急承認されたことで、人々の恐怖は徐々に薄れてきつつありますが、私の研究分野である公衆衛生看護においては「公衆:おおやけの人々」が「生:いきること」を「衛:まもる」ための活動であり、「平等」と「公平」のジレンマがCOVID-19でも浮彫になり、多くの課題を突き付けられると共に、私たちの人としての心の豊かさや倫理感が試されていると感じます。

WHOの報告によると、2022年6月時点で194の加盟国のうち58か国が70%以上の接種率の目標を達成している中で、低所得国は、未だに医療従事者のわずか37%のみがワクチン接種を受けられている状況であり、一般の市民にワクチンが行き届いていないのが実状です。このように高所得国では、外国製のワクチンや自国の治療薬の開発が早期におこなわれ、ワクチンの入手においても他国から優先輸入ができるよう外交的な契約を結び、安定した治療を行えています。一方で、低所得国では未だにワクチンの供給が十分ではなかったり、医療や薬が行き届かない国が沢山あったりと、医療の公平性には問題が残っているのが実情です。高所得国が自国の民の命を衛(まもる)ためにおこなった行動ではありますが、ワクチン接種率が世界規模で同レベルに至らない今の状況は、低接種率の国で、新しい変異体の感染症を生み出すリスクを残していることであり、ひいては世界規模の健康危機に今一度見舞われる危険性を残しているといえます。

日本国内においても、経済格差の広がる中「平等」に10万円の支給をするのか、「公平」に経済危機を乗り越えられるよう、年間所得の低い家庭に手厚く経済支援をしていくのか、世論が分かれている状況にあります。内閣府の報告(選択する未来-人口推計から見えてくる将来像-,2022.11,28アクセス可能)している人口構造の将来推計においても、現状のまま人口構造が推移した場合、2060年には年少人口は9.1%以下にまで下がり、高齢者人口は40%を超え、生産年齢人口は50%になることが見込まれています。経済的な側面においても「平等」を維持し続けることは困難な将来像が示されており、現在は高所得国にある日本の経済状況を、40年後の未来にも維持し続けられるのか、不透明な状況といえます。経済格差の広がりは人々の健康にも影響しており、受診控えや病気の早期発見・早期治療の遅れなど医療アクセスが停滞することにも繋がります。ひいては平均寿命や健康寿命に直結し、さらなる健康格差を産む負のスパイラルに陥ることとなります。

日本では比較的、「全ての人々は平等である事」を求められる社会通念が一般的ではありますが、人口構造が究極の少子高齢化に向かっていく将来予測が示される中、「平等」であり続けること、当たり前にいつでも病院に行き、現在と同等の医療が受け続けられる状況を維持し続けていくためには、「平等」より「公平」な医療提供や経済支援のあり方に社会通念をシフトチェンジしていく事も、必要な時期なのではないかと考える今日この頃です。