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教員リレーエッセイ

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答えは患者さんのなかにある、患者さんが持っています


2026年3月10日更新
 臨床看護師として循環器病棟に長く勤務しました。私の大学院進学のきっかけは、その病棟に何度も入退院を繰り返していた患者さんとの出会いです。その患者さんは、いつも呼吸困難と冷汗を伴い緊急入院をします。苦しそうに「はあー、はあー」と肩で呼吸をしながら、「ごめんね、また来ちゃった・・・」と済まなさそうに私たちに詫びを入れます。そのたびに私たち看護師は「あー、大丈夫ですよー。また苦しくなっちゃったんですね…」と笑顔で迎え入れ、処置を行います。そして「またあの患者さんだよ。ついこの間退院したばっかりだよね」と皆でつぶやくのです。
 退院する時に私たち看護師や医師は、患者さんやご家族に病気の自己管理として必要な内容をしっかりと説明をします。私たちの説明を聞きながら、患者さんやご家族は大きく頷き「今までお刺身の裏表にたっぷりと醤油をつけて食べていたけど、これからはほんのちょっぴりだけ、醤油をつけるよ」などと言い退院するのに、なぜ何度も再入院を繰り返すのだろう・・・再入院を繰り返す「病気の自己管理ができない、理解力のない患者さん」なのだろうか。
 患者さんはなぜ再入院を繰り返すのか、私はそれを知りたいと思い大学院へ進学をしました。大学院でのフィールドワークやゼミでの意見交換、同窓生との語らいから研究テーマを決め、虚血性心疾患に罹患した高齢者16名を対象に質的研究を行いました。外来でのインタビューののち、後日ご自宅に訪問して再度インタビューをしました。そこからわかったことは、「家族に迷惑をかけず、自分らしい生活を維持するために自己管理を行っている」ということでした。この結果から私は、今まで医療者の考える病気の自己管理だけを一方的に患者さんに説明していた、患者さんの大切にしている生活やどうありたいのか、これからも続く人生に何を望んでいるのかということを全く伺っていなかったことに気づかされ、愕然としました。医療者の考える病気の自己管理について説明をされても、退院して元の暮らしに戻った患者さんにとっては、あまり役に立たない自己管理の説明だった、だから何度も再入院を繰り返してしまっていたのかもしれない。再入院の原因は、「病気の自己管理ができない、理解力のない患者さん」ではなく、私たち医療者の姿勢にあったのだと考えました。
 それからの私は、患者さんの大切にしている生活やこれからも続く人生に何を望んでいるのか、患者さんから教えていただくことを看護実践の礎としています。答えは患者さんのなかにある、患者さんが持っています。教員となった今の私は、学生の皆さんに「患者さんは何とおっしゃっているの?患者さんの望みは?」と常に患者さんを主語とした問いかけを繰り返しているように思います。