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教員リレーエッセイ

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ソーシャルワーカーとして「人として向き合う」


2024年2月10日更新
 ここ十数年、ソーシャルワーカー(以下、ワーカー)がどのような臨床体験を経て専門家になっていくのか、そのプロセスを研究してきました。先行研究を調べるなかで、対人支援者は必ずしも「右肩上がり」で成長していくわけではないこと、「専門家としての自分」と「素の自分」の統合が大切であることなどを学んだ上で、精神保健福祉領域のワーカーの方々にインタビュー調査をさせていただきました。
 多くの方々が、何年、何十年たっても「忘れられない体験」があるとし、初対面の私に対して、ご自分の「挫折」を率直に語ってくださいました。それは、今でも思い出すと心がチクチクと痛むような、利用者の方々とのかかわりにおける失敗であり、ほとんどが一人前になる以前の「新人」の時期に経験されていました。
 精神保健福祉領域で先駆的な実践を展開してきた大ベテランのワーカーの方は、40年以上前の「挫折体験」の意味を考え続け、ワーカーが大切にすべきことは、利用者の「尊厳を守ること」であり、その実践は「すること(doing)」だけではなく、「やらないこと」を見つけて「見守ること(being)」でもあると語ってくださいました。深遠な語りです。
 専門家として、利用者の方の生命にかかわるような失敗はしてはならないですし、たとえ生命にかかわらないとしても、失敗や挫折を積極的に体験したいと思う人はいないでしょう。しかしながら、インタビューで多様な語りを聴かせていただくうちに、こうした失敗は、知識や技術が不十分である一人前以前のワーカーだからこそ経験が可能であり、それがワーカーの基盤を形成していると考えるようになりました。つまり、「専門家としての自分」というよりも「素の自分」で利用者の方と「向き合う」からこそ生じる失敗であることから、未熟な「新人の実践」と片づけてしまうのではなく、徹頭徹尾「人として向き合う」という極めて「倫理的な実践」であり、この体験を出発点として「ゆらがない専門家としての軸」を生成していくものとして捉えるようになったのです。
 以上のような研究を通して臨床で働くワーカーの皆さんから教えていただいたことを大切にし、大学の授業では「倫理的にかかわりとは何かを考え続けることの重要性」を伝え続けています。