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教員リレーエッセイ

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梅が嫌うも、やさしい手


2021年8月11日更新
 夏生まれの私にとって、セミが我先にと鳴くこの時期は大好きな季節です。そして自家製梅ジュースを夏バテ対策に飲むのが朝の楽しみです。梅酒も毎年作りますが、我が家では、梅ジュースの炭酸割りが好評です。梅ジュースも、梅酒も美味に仕上げることが出来ますが、何故か、私は梅干しを上手く漬けることができません。母と私では赤色が出ず、亡父が赤紫蘇を揉みながら、「梅が母さんの手を嫌う」と豪快に笑っていたのが記憶として心に残っています。
 梅干しは、「一日一粒で医者いらず」と言われ、①美容効果②疲労回復③食中毒予防④インフルエンザ・胃潰瘍・胃がん予防⑤血流改善が科学的な健康効果として報告されています。日本人のソウルフードとも言える梅干しですが、上手く漬けられない嫁(母)や孫(私)は、祖母にとっては、塩梅(あんばい)が悪い出来の悪い女(おなご)でした。塩梅とは、料理の味加減や物事の具合以外にも程よく物事を処理する意味でも用いられます。
 厳格な祖母にとっては、梅干しを赤くできない孫娘は役に立たない存在でした。その為か内孫にも関わらず愛された記憶がなかったのですが、転機が訪れます。字が読めなかった祖母が晩年に難聴になった為、私は祖母宛に絵手紙を描いて郵送していました。拙い絵でしたが、喜んでくれ、部屋に飾っていました。思い返してみると、「嫁ぎ先に持っていけ」と祖母が必ず持たせてくれたのが梅干しの瓶詰でした。そして別れが近づいた時に祖母に【優しい手をしている】と握られた時、介護の仕事への進むべき道が拓けたような感覚を覚えました。
 赤紫蘇揉みが得意な父が【お前の手は安心感がある】と【梅が上手く漬けられてなくても、お前の心は一等賞】と励ましてくれたのも懐かしい思い出です。以前発行されていた家庭介護雑誌「やさしい手」を見つけた時に、住み慣れた家で、安心して老いるための担い手としての自分の職業に改めて誇りを持てました。山裾の苔むした実家の匂いと緑、そして色鮮やかな梅干しの赤、私の真夏の色鮮やかな記憶です。